2015年4月18日土曜日

書評:民主主義の条件

僕が敬愛してやまない(?)、友人でもある砂原先生の本です。


民主主義の条件

内容は主に政党及び選挙を中心に、制度設計がどのように個々のアクターのアクションに影響を及ぼすのか、についてわかりやすく書かれています。高校生や大学生の政治学の入門書としてよい本ではないでしょうか。

論の進め方も堅苦しいものではなく、

「だいたい人口10万人くらいの市でも1500票程度とれば当選できることになります。人口の1%程度ですから、たとえば市の商工会とか農協とか自治体とか、いくつかの団体をまとめれば難しくない数と言えます。 …どれだけひどい議員であっても、「選挙で落選させる」という脅しが効きにくくなります。」

といった具合です。

無党派の多さに現れているように、今の日本の政治状況に満足している国民はそれほど多くはないでしょう。ただ、その原因を紐解いた言説では、「政治家が昔に比べて小粒になった」「政治家は国民自身のレベルを反映したものだからだから、しょうがない」といった具合に、「国民一般の民度」に帰責させてしまうものが多いように思います。

「民度」が問題だとすれば、その解決は容易ではありません。せいぜい「学校教育を頑張ろう」ということぐらいしか、やれることはないのではないでしょうか。もちろん本当に民度が原因ということもあるかもしれませんが、率直に申し上げれば、そうした論評はあまり現実の状況の改善には役に立たないように思います。

本書では、制度を変えることによって、政治家が特殊な団体の利益代表となってしまう状況を変え、より国民の納得性が向上されるやり方がある、と主張しています。制度を変えるというのは具体的で実現可能な話であり、僕はとても生産的な提言だと思います。

組織人の立場から感想を述べると、これは大組織の中で意思決定に関与する人々にもインサイトを与えるのではないでしょうか。

およそ組織人であれば、時にはその組織の長であったとしても、自己の考えへの賛同者を集めなければ自らの望む事業はなしえません。その面倒なプロセスを経るからこそ、個人では為し得ない事業が可能になります。様々なインセンティブを持つ多数の関与者の支持を得るにはどうしたらよいのか、そうした視座を与えてくれるように思います。


最後に、Kindleで読めるはよいですね!整理しても整理しても、拙宅の兎小屋では本の保存場所に困りますので、全ての新刊がマルチプラットフォームで出版されることを切に願います。


P.S. この本には谷口氏がかっこいい書評を書かれています。

以前、ある研究会で聞いた「権力の過剰と希少」という話があった。法学者は国法の頂点たる憲法自体が権力制限規範であることからも明らかなように、いかにして過剰になりがちな権力を制限するかに注目するが、これに対して政治学者は権力はむしろ希少で、いかにしてそれを育むかに関心を持つ、というものである。

 本書はこの点、希少な資源としての権力(多数派形成、政党など)の育成を選挙という制度知の観点からじっくりと分かりやすく考察するもので、上記の意味での政治学の「王道」を行く。

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