2014年3月27日木曜日

書評:経営戦略を問いなおす

これもTwitterで紹介されていた本です。面白い。

経営戦略を問いなおす (ちくま新書)

戦略云々のところはグロービスの教科書とかぶっているのでいいとして、実務に関する話がイメージしやすくて、面白いです。

例えば、経営企画と言われると”一丁目一番地”とか言われたりしますが。が。「実際には予算の取りまとめ業務なり、上長が必要とする資料の作成業務に従事するのが経営企画です」というのが実態です。

前に現場からあがってくるボトムアップの「経営計画」が使い物にならないというエントリーを書きましたが「部課長に頭を使わせるのは良いのですが…彼らの手に負えるものではありません。分業体制に組み込まれている以上、その分業体制の成り立ちそのものに手をつけるわけにはいかないのです。」となります。

「しかも、手を付ける付けない以前の問題があります。山の中腹で森の中を必死に登っている人間は、山脈の全貌など見えないのです」。一方で「戦略とトップダウンは別物です。…経営者の思い描いた姿形になりつつも、社員は自分達でそれをやったと信じている。これぞ良い会社の究極のイメージでしょう」など、個人的には納得感があります。

経営に興味のある人にはおすすめ。ただ、経営を目指す人に対するソリューション(例:新規事業立ち上げプロジェクト/部署に応募しろ)とかは、実務家からするとちょっと疑問。概念整理は秀逸。

2014年3月23日日曜日

Post-MBAのキャリア

この間、インド人のLondon Business School MBAコースの面接をやったのですが、その人から「受かりました!」との連絡をいただきました。一方で大学の後輩(20代後半)は社費留学の審査に通らず、個人で応募してとあるビジネススクールに受かったものの、トップスクールではないので退職して行くかどうか悩んでいる由。


Post-MBAで海外で働く日本人は極めて少数です。やはり日本人は日本で働いたほうが色々と有利なのが現実です。生まれも育ちも海外、国籍だけ日本という人たちは関係ないですけど。

日本に戻った場合のPost-MBAのキャリアパスは狭いです。トップスクールであれば、まず「投資銀行」か「コンサル」で卒業生の半分以上を占めることになります。で、その他が「事業会社」と言われてひとくくりにされるのですが、これも「外資製薬会社」を筆頭に「アマゾン、ユニクロ、楽天、グーグル、グリー、DeNA」など、どこかで聞いたような新興企業が並ぶことになります。あと、起業という選択肢もありますね。

Post-MBAは投資銀行かコンサルが第一オプションになります。ただ、この業界は激務です。「労働基準法って何?嫌なら辞めろ」の世界ですから、毎日午前様、休日出勤は当たり前。離職率が高いので、うつ病になるという話はあまり聞きませんけど…

コンサル/投資銀行でそのままパートナーを目指すという人は一握りです。クビになって途中退場というのもありますし、やはりアドバイザーという仕事を一生というのはちょっと…という人が多いように思います。ただ、辞めたその先は?実は僕もよくわかりません。

リーマンショック前まではコンサル/投資銀行からファンドに行くというのが一種のサクセスストーリーだったのですが、最近はあまり聞きませんね。やはり、日本では市場として厚みがないということなのでしょうか。

外資製薬会社はさすがに規制業界だけあってワークライフバランスは抜群なのですが、そこに就職した知人は「ひたすら日本のお金を海外本社に送るという作業に疑問を感じる」とは言っていました。新興企業はどれもこれもオーナー企業ですから、やはりクセがあります。

てな感じで、これはこの間HBS卒の後輩とも話したのですが、Post-MBAキャリアパスはどれも日本社会において「本流」じゃないな、という印象を持つのは否めないところです。

もちろん、人生の選択に正解なんてありません。所詮サラリーマンなのに本流だ亜流だくだらない、大企業から離れてのびのび、楽しそうに仕事をしている人たちもいます。安泰だと思っていた大企業に勤め続けたら10年後に経営危機でリストラされるかもしれません。

後輩には「どういう人生を選択をするかはもちろん自分が決めること。ただ、もう学生じゃないし、現実に就ける職は高い確率で一定の範囲に限られることをちゃんと認識すること。もしお前が家庭を優先するなら…」てな話をしました。


2014年3月16日日曜日

少年非行のケース:K君の人生

示談に関わった新人弁護士から聞いたK君の話。

(以下事実に基づいていますが、個人の特定を避けるために多少改変しています)


現在18歳、北海道出身

小学生の頃両親が離婚。母親に引き取られる。

母親が再婚するが、再婚相手から虐待を受ける。「冬の海の捨ててやる」と港まで連れて行かれたことも。中学生のときに実父のところに逃げ込む。

父親が愛知まで出稼ぎに行くことになり、祖母の家から高校に通う。「ヤンチャ」を繰り返し、祖母から育てられないので父親のところに行ってくれと懇願される。

愛知に行くが、高校の編入で学年が下がることが嫌で、働き始める(したがって学歴は中卒)。2年間勤め上げるも、知り合いも友達もいない状況でさびしさが募り友人達のいる北海道に戻る。が、ほとんど友人がいない状況は戻っても変わらなかった。

「都会なら」ということで友人一名と関東に出てくるが、そう簡単に仕事は見つからず漫画喫茶等で寝泊り。お金が尽きた頃に、やはり愛知の方で出稼ぎの仕事が見つかったので、集合場所の新宿まで行くことに。電車賃がないのでパクった自転車で移動。途中どうしてもおなかが空いたので、コンビニで万引き。

それが見つかって友人と一緒に緊急逮捕。それまで2-3回警察にお世話になっている(工場時代に寮にあった自転車に乗っていたら、それが盗難自転車だった/おなかがすいてスーパーで万引き)ので、起訴猶予になるかどうか、という状況。

新人弁護士君が被害者とは示談にすることができたので検察も起訴猶予。接見中実家に戻ることは考えなかったのか?との質問に対して「父親も結局うつ病とかになっているので、迷惑をかけたくなかった」とのこと。

新人弁護士「若いし健康だし、仕事はあると思う。自立支援とか紹介したんだけど…」




書評:現代日本の少年非行

Twitterで推奨されていて読んだ本。中々面白かったです。

現代日本の少年非行―その発生態様と関連要因に関する実証的研究

「2000年以降3度の少年法改正はいわゆる「厳罰化」の方向に向かっていますが…実際にはこれが何らかの問題解決につながるという根拠はほとんどない(鮎川2005)とされており」筆者はこれらの改正を典型的なポピュリズムであると断じています。

正しい政策判断には正しい現状認識が必要である、という問題意識に基づいて、丁寧に統計データを見ています。


■少年非行は悪化しているのか?

これはネット界隈ではよく言われることですが、データを見れば「非行の凶悪化はいかなる意味でも認められない」ということです。
  • 少年は全体で3グループに分けられ、非行なし群が全体の7-8割、低レベル非行群が全体の2-3割を占めていて、高レベル非行群は全体の1%程度。
  • 低レベル非行群は12~15歳で非行を行い、窃盗(自転車盗、万引き等)がほとんどで、1回の検挙で非行歴は終了する。
  • 高レベル非行群は概ね10歳が初犯年齢であり、3-4回検挙される。暴行や殺人などの重大な犯罪に関与する確立が高い。これらの1%の少年が、全ての非行の4分の1にかかわっている。

これらの傾向は年齢動向の多少の変化があれども、数十年間変わっていません。「非行対策においてもっとも注視すべきは非行を繰り返す一部の少年であり、彼らの再非行を減らすことができれば総量を大幅に減らすことができる」としています。


■普通の子が「キレル」のか?

2010年の公式統計では両親ありを比較対象としたときの検挙されるリスクは、「母のみ」で1.8-3.1倍、「父のみ」で2.5-3.6倍となります。10代の凶悪犯(殺人・強盗・放火・強姦)の約6割は非在学・中卒者が6割を占め、窃盗犯などの軽微な犯罪でも低学歴層の構成比が大きくなっています。

「非行は今日においてもなお、低階層出身の子供や、親の不在等の不遇な生活環境に置かれた子供に偏在しているのである。もちろん、このようなエビデンスは一歩間違えると差別や偏見を増幅することにつながるので、取扱には注意が必要であるしかしだからといって事実に目を背けてはこのような偏在状態が維持されるだけである。

「海外において実施され、効果のあることが裏付けられている、過程領域に関わる非行の予防・低減策は、日本においても効果的である可能性が出てくると考えられる。…何らかの働きかけにより、彼らの学校への適応度を高めることが、少年非行の抑制の為に効果的であるということを、本研究は示唆している」


以下の著者の結びは頷くところ大です。

「今日の日本社会には、犯罪・非行や逸脱行動に関わった人々に対して、彼らの自己責任を強調した上で、反省、制裁、排除を求める社会的圧力が、以前よりも高まっている。『被害者の視点を取り入れた教育』が重視されてきている(緑川 2004)…そのような対応は、彼らへの排除の圧力をさらに高め、問題をより深刻にしてしまう可能性がある

2014年3月5日水曜日

書評:ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

昨日Twitterで紹介した書籍ですが、日本語訳もあったのでご紹介。



ウォールストリート・ジャーナル式図解表現のルール

要するにグラフを書く際の基本ルールを紹介しているのですが、いい本だと思います。日本では新入社員研修とやりますが、少なくとも僕の時代はこの手の研修はありませんでした。事務職をやる新入社員は一度は目を通しておいた方がよいかと。


・文章よりもグラフの方が簡単かつ直観的に理解できる

「A会社の売上は今期100億円でB会社は75億円でそれに次ぐ。3位のC会社は60億円。」


・意味のあるグラフを使いなさい。


 このグラフは何も語っていない


 上昇傾向であることが分かる


・表では小数点の位置はそろえなさい



等々です。薄い本なので、資料づくりの多い若手の方々は是非。