2015年3月4日水曜日

中世ヨーロッパの国家形成

ちょっと時間があったので、以前砂原先生に教えてもらったこちらの論文を読んでみました。

The Economic Origins of the Territorial State (2013 Abramson)




これがかなり面白くて、「従来では『ヨーロッパでは中世~近世にかけて火器の発達により大規模な資本集積が必要となり、これによって小さな政治体が駆逐されて領域国家が形成された』との理解は実態と正反対である」というものです。

これらの理解はイギリス、フランス、オランダ等のどちらかというと「はずれ値」のみに当てはまる議論で、その他の200以上の独立政治体の推移を俯瞰的にみれば、決してそうした現象は観察されない、としています。



上記グラフは国の平均面積をとったものです。上のチャートの赤線平均値でみると確かに国のサイズが大きくなっているようにみえるが、これは少数のはずれ値の影響であって、むしろほとんどの国のサイズは低下してきたというものです(2番目のグラフはログ換算したもの)。

さらに、下のチャートにあるように、数だけで言えば、むしろ中世はこうした政治プレイヤーが急激に増加した期間に相当し、1300年以降ゆっくりと低下したとあります。(1600年代の落ち込みは30年戦争の影響)。



Abramsonによれば、こうした共同体の数の増加の背景にあるのは、都市の経済力の向上であるとしています。こうした都市が経済力をつけ、人口を増やすことによって、独立した政治体の数が増加したとみています。

また、中世の軍備が「騎士=重装騎兵」から「歩兵」主力になることによって、軍事費のコストが下がり、都市でも独立を維持できるだけの軍備を備えることができたとしています。よくいわれてるような火器の登場は、国家形成にあまり影響を及ぼさなかったとしています。

なお、1800年以降ヨーロッパの政治体の数は急激に低下し50以下となるのですが、この原因については、ナポレオン戦争の影響、産業革命による経済力の飛躍的拡大と軍事力の巨大化、ナショナリズムの形成、等々が影響しており、さらなる研究が必要としています。



僕は歴史の本が好きなのですが、確かに「著者の興味ある事象だけを物語る」のではなくて、こうして俯瞰的に物事をみて、さらに定量的に検証するというアプローチはとても面白いですね。歴史人口学とかも好きな分野です。

余談ですが、Abramsonはまだ30代になったばかりのまさに「気鋭の若手学者」。このテーマで本も書くようですし、楽しみです。

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